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シネマ歌舞伎『女殺油地獄』と片岡仁左衛門

先日、シネマ歌舞伎『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』を見てきました。

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シネマ歌舞伎とは、歌舞伎の舞台公演をそのまま撮影し、映画化したものです。そりゃ、実際の舞台にかなうはずはありませんが、大スクリーンで見ることもあり、かなりの臨場感です。役者の表情や細かい演技を見る点に限れば、実際の舞台に勝る点もあるぐらい。歌舞伎公演も映画も配給している松竹でなければできない作品であります。

作品リストは シネマ歌舞伎 - Wikipedia を見て頂きたいんですが、結構「変化球」的な作品が多いですね。

第1作が、野田秀樹の演出した『野田版 鼠小僧』。シネマ歌舞伎第1作目から伝統的な狂言(演目)を外してきているわけで、松竹の狙いが現れているように思います。つまり、「歌舞伎にあまり興味のない人達も取り込む」という狙いです。

観覧料は2000円と、舞台に比べれば遥かに安いですし、歌舞伎の劇場に比べれば映画館の方が敷居は低いはず。もちろん、従来の歌舞伎ファンも取り込める。新たな制作費用もそれほどかからないでしょうし、松竹にとってはけっこう「おいしい」ビジネスなんじゃないでしょうか。私が社員なら、この路線を推し進めたい(笑)。

私、2005年の第1作『野田版 鼠小僧』も見ているんですが、歌舞伎に接する新たなチャンネルが増えて、嬉しかった覚えがあります。歌舞伎にあまり興味のない副代表も楽しんでいたので、松竹の狙いはバッチリ。もちろん、主演の中村勘三郎(当時は勘九郎)が名優だということが大きいわけですが……。





さて、今回の『女殺油地獄』。歌舞伎作品としてはとてもポピュラーなものでして、文楽・歌舞伎をあまりご存知でない方にも、狂言名(作品名)は、結構知れているのではないでしょうか。

近松門左衛門の典型的な世話物(江戸時代の現代ドラマ)なんですが、私なりにあらすじをまとめると、以下の通り。

大坂天満に油屋がありました。

現主人(今で言えば「社長」ぐらい)の徳兵衛は、番頭(今で言えば「店舗支配人」ぐらい)だったんですが、先代の主人が早くに亡くなったため、未亡人のお沢と結婚し、今の地位に就いています。若い頃から先代主人やその妻に仕えてきた人ですから、今も妻であるお沢、それから、先代の残した二人の息子にはかなり遠慮がち(ここ重要なポイント)。

長男はしっかりと育ち、とても親孝行な息子さんに。新たな店舗を任され、立派に切り盛りしています。困ったのは次男の与兵衛。義父が遠慮がちなのをいいことに、店の売り上げをくすねては、新町(大坂の格の高い遊郭)の女に入れあげています。それどころか、町のよからぬ連中とつるんでは悪事を重ね、家族にも暴力を振るう始末。

あまりの放蕩ぶりに、徳兵衛とお沢は与兵衛を勘当。ただ、本心は与兵衛がかわいく、不憫で仕方がない。そこで、同業者の油屋の女房お吉を介して、与兵衛に小遣い銭を与えたりします(甘すぎる!)。

年上のお姉さん的存在であるお吉は、結構魅力的な女性なんですが(ここも重要なポイント)、夫や子のある身。与兵衛は不義密通に持ち込もうとするんですが、もちろん断られます。また、借金で首が回らなくなっているため、お吉に金を無心するんですが、やはりこれも断られます(当たり前だ)。

逆ギレした与兵衛は、お吉を惨殺し、店の売り上げを奪って逃走……、というようなストーリーです。

さすが近松、人物像の造型が上手いんですよね。甘い母に遠慮がちな義父。自制心のない次男がどんどん増長して、道を誤る……。現代の人間が見ても、何の違和感もありません。



さて、今回のシネマ歌舞伎『女殺油地獄』で主役河内屋与兵衛を演ずるのは、片岡仁左衛門

片岡仁左衛門が当代の歌舞伎界を代表する名優であるということに、異論を挟む人はほとんどいないと思います。理知的な役柄の解釈、舞台映えするスラッとした姿形、セリフ回しの上手さ。今回、片岡仁左衛門の与兵衛だからこそ、私も劇場に足を運ぶ気になっているわけです。

シネマ化されているのは、歌舞伎座さよなら公演ということもあってか、とても熱の入った舞台でした。

油まみれになってお吉を惨殺するシーンが見所なのはもちろんですが(ほとんど舞踊です)、ふっと見せる表情が、零落した男の色気とでもいうものを強く感じさせます。これが演技で出来る俳優はとても少ないと思うんですが、片岡仁左衛門はその数少ない俳優の一人でしょう。

彼の演技力は、花道を出てくる最初の場面から発揮されます。タタタタと走り出る与兵衛。その走り方と表情だけで、「与兵衛が思慮分別のない阿呆な若者である」ということが瞬時に観客に伝わります。これを芸の力と呼ばずして何と呼びましょう。御歳67歳であることもお考え合わせいただければ、これは驚異に値することだということがご理解いただけるかと。

個人的には、与兵衛というチンピラキャラクターには全く共感できないんですが、近松の作劇術、そして、片岡仁左衛門の演技というフィルターを通せば、あら不思議、とても説得力のある舞台作品になります。

「歌舞伎ってよくわからないな」とお思いの方、一度シネマ歌舞伎はいかがでしょうか。





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