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車谷長吉『人生の救い』



車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)
(2012/12/07)
車谷 長吉



車谷長吉氏の『贋世捨人』を読んだ後、氏が朝日新聞で人生相談コーナーを担当していた事を知りました。そのコーナーをまとめた書籍が『人生の救い』。

車谷長吉『贋世捨人』:国語塾・宮田塾のブログ

私自身、「自分の人生を相談する」ことには何の興味もありません。自分の人生なんだから好きにする、人にあれこれ相談する迄もない。しかし、時々ですが、人様から人生相談を受けることがあります。こんな人間に相談したってしようがないだろうと思うんですが(笑)、頼られた以上、一応にこにこ笑って話を聞きます。

すると、大体の場合は、こちらが何も言わなくても勝手に納得してくれます。勝手に自分で話し、勝手に自分で解決して帰って行く。一体私は何なんですかと言いたくなりますが、人生相談というのは、まぁ、そういうものではないかと思います。つまり、自分の胸の内をはき出してスッキリするのが人生相談の実際ではないかと。

とすれば、人生相談の解答なんてどうでもいい、むしろテキトーな話の方が害が無くていいんじゃないか。「大変なのはあなただけじゃないんですよ、みんな大変なんですよ、明日から頑張りましょうね、ニコッ!」で、どんな相談もOKみたいな。

何かすごく無責任な人に思われても困りますので、付言しておきますが、勉強に関する相談には真剣に応対しています。そこのところ、お間違いなきようお願い申し上げます(笑)。



さて、ネタ振りはそれぐらいにして、車谷長吉氏『人生の救い』の話です。私よりも妻の方が先に読んだんですが、妻曰く、「車谷さんらしく相談者をぶった斬りしまくってて面白かったよ、でも、若い人や病気の人にはすごく優しい気がする」との由。

上述のように、個人的には、人生の救いや手本や教則を、人生相談に求めるのは間違っている(というかお門違い)だと思っています。だから私が読みたいのは、救いや手本ではなく、筆者の芸。切羽詰まった相談をネタに、いかに芸を見せてくれるか。それが私の興味です。

この『人生の救い』、一気に読了しましたが、私の要望にこれでもかと応えてくれる作品でありました。

例えばこんな感じ。

妻子ある40代の高校英語教諭。学校でも責任ある地位。ところが、生徒である高校2年生の女生徒が好きで好きで堪らない。自分がコントロールできなくなりそうで怖い。自宅でもその女生徒のことばかり考えてしまう。自己嫌悪に陥るものの、情動を抑えられません、どうしたらいいのでしょうか? という相談です。

私からすると、生徒にそういう気持ちを持つというのがどうにも理解できないんですが、世の教師と呼ばれる人々の行いを見ていると、そういう趣味の人がいることは分かります。怖いなぁ……。

通り一遍の回答としては、「仮にも立派な大人なんですから、変な考えは捨ててまっとうに生きましょう。」というところが予想されますが、車谷氏の回答は次の通り。

「あなたは自分の生が破綻することを恐れていらっしゃるのです。破綻して、職業も名誉も家庭も失った時、はじめて人間とは何かということが見えるのです。あなたは高校の教師だそうですが、好きになった女生徒と出来てしまえば、それでよいのです。そうすると、はじめて人間の生とは何かということが見え、この世の本当の姿が見えるのです。
 せっかく人間に生まれてきながら、人間とは何かということを知らずに、生が終わってしまうのは実に味気ないことです。そういう人間が世の九割です。
(中略)
 阿呆になることが一番よいのです。あなたは小利口な人です。」

(車谷長吉『人生の救い』より引用)


ちょちょちょ、ちょっと待った、けしかけてどうするんですか(笑)。でも、とてもいい回答だと思います。読者としてはとても楽しめる。所詮は他人の悩みということもありますが、そもそも世の悩みのほとんどは、他者からするとちっぽけなもの。それなら、こんな回答もありじゃないか。

妻が新興宗教に凝っていることを悩む人には、騙されるのは楽になる道だから仕方がないと突き放す。

80歳近い夫が浮気をして困っている奥さんには、自分の世間体を捨て、道の真ん中で夫と浮気相手に怒鳴り散らせ、醜態をさらせ、それでも浮気癖は直らないはずだから、一日も早く夫かあなたが死ぬのを待てと言う。

もうね、ぶった斬りまくりです。人生相談かくあるべし。

一方で、妻の言うように、病気の方や若い人には、優しい回答が用意されています。精神を病みそうな人には精神科の受診を勧め、大学生には、遠くを夢見ず今日という一日だけを真剣に生きろとアドバイスする。

こういう臨機応変さも素晴らしいですね。読後は、何かありがたい仏様の教えをいただいたような気にさえなりました。

ちなみに、文庫本解説は万城目学が担当。さすが、よく分かってるなあ。

「「人生相談」と銘打っていても、相談という双方向のコミュニケーションが取られた形跡はあまり感じられない。むしろ、他人の悩み事を回答者が片っ端から殺しているようにも見える。一刀両断とはちょっとちがう。やはり、殺していると呼ぶのが相応しいように思う。」
(車谷長吉『人生の救い』解説より引用)



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最後に。車谷氏も万城目君も癒しの手段として勧めているのが、「奈良盆地を歩くこと」。確かに奈良はのほほ〜んとしていて精神が解放されやすい地です。私は奈良柳生の里あたりをバイクで走っているととても幸せな気分になるんですが、今度は歩いてみようかな。




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